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交友録

連載:第一回
2005年アンリ・ベンソン教授と

私は1963年~1966年まで、カリフォルニア・サンジェイゴにある「スクリプス海洋研究所」に、派遣研究員並びにカリフォルニア大学助教授として、フルブライト奨学金により招聘されました。

私を招いてくれた先生は、(当時、光合成によるCO2固定の研究でノーベル賞を受賞したカルビン教授と共同研究をしていた)アンリ・ベンソン教授だったのです。
先生とは、ただ一度、国際酵素会議(箱根)で出会ったことがあるという、ただそれだけの交流だったのです。
にもかかわらず、なぜ私を招聘してくれたのかは、今でもよく分かりません。

ベンソン先生一家と

しかし先生のお人柄については、その当時、アメリカのマスコミでセンセーショナルに騒がれていた、
“何故、共同研究者のカルビン教授だけがノーベル賞受賞で、もう一方の
ベンソン教授が受賞対象にならなかったのか?”
という同じ質問を私がした時の先生のお言葉で、私にはよく理解できたのです。
その答えはこうでした・・・
“カルビン教授の方が「ノーベル賞受賞」に熱意が有ったということだよ。僕は自分の研究の目的が、ノーベル賞だけではないということだよ”
とだけ言うと、あとは何事も無かったかのように熱心に、ペーパークロマトグラフについての話しをしてくれました。

スクリプス海洋研究所風景

今では私たち一家3人にとって、米国での研究所生活は楽しい思い出ですが、もちろん中には、辛い思い出もありました。
子供がスーパーマーケットで迷子になる騒ぎや、或いはまた幼稚園での語学問題に直面する悩みなどもあったのですが、そんな時ベンソン先生は、奥さんの経営されていた幼稚園を手配してくれていたのです。
異国の馴れない生活環境にあって、私たち家族はその様な先生の温かいお人柄に、随分と救われたのです。

美しい研究所周辺の自然環境とベンソン先生の暖かい心遣いが、アメリカでの懐かしい思い出として、今も私の心に蘇ります。